石橋英子ロングインタビュー
intervew & text:Player 北村和孝

NATSUMEN、PANICSMILE、MONG HANGといったバンドやセッションで、鍵盤や打楽器、 管楽器などを器用に操り、またインプロヴィゼーションも大得意といった感じで、石橋英子には早くから才女という印象があった。しかし06年の1stソロアルバム『Works for Everything』を聴いて、音楽家としての彼女のイメージがガラリと変わったという人は多いだろう。映画監督、蔭山周による映画『モロヘイヤWAR』の音楽を務めたのを皮切りにスタートしたソロ活動だったが、「夜鷹の星」で魅せたシンガーソングライターとしての可能性には驚かされた。多岐に渡るバンド、セッション活動ととともに以後はソロ活動も定期的となり、石橋英子×アチコのデュオによる『サマードレス』といったアルバムでも歌心は育まれていったのである。続いて登場した2ndソロ『drifting devil』ではソングライティングの構築性と、インプロヴィゼーションの衝動性が同居する、そのバランス加減がとにかく鮮烈な1枚と仕上がることになった。「自分の曲に合った音がどういう環境にあるのかを探究したい」とのことで、『drifting devil』は様々なレコーディング方法を試みるとともに、多数のゲストミュージシャンとともに試行錯誤の中産み出されたのだが、結果的にバラエティに富んだ内容となったと思う。その結果として『drifting devil』で石橋英子に出逢ったというファンも多いはずだ。メディアにおいての露出もこの時期から増えることとなり、まさに注目度が上昇する最中にじっくりと製作されて、2011年国内ロックシーンの新たなる幕開けを飾ったのが御存知の通り『carapace』である。昨年よりライブで新曲はいち早く披露されてはいたが、盟友ジム・オルークによるプロデュース、エンジニアリングが施されたことで、石橋英子流ポップミュージックのさらなる可能性が切り開いているのはお聴きいただいた通りである。ジムと彼女の組み合わせであるならば、数時間スタジオセッションすればインプロで鮮烈な音を編むこともできただろう。しかしあえてソロアルバムにおいて彼女が挑んだのは、選び抜かれた言葉と研ぎすまされた音とによる「歌」を作るアプローチであった。ピアノの右手とのユニゾンによる旋律を繊細な歌声が奏でるとともに、まるで異世界へと誘うようなスリリングな生楽器によるアンサンブルとの攻めぎ合いは、追憶と未来とが交錯する彼女独自の詩世界にも呼応している。およそ10,000字に及ぶこのインタビューは、“何故ゆえに石橋英子はシンガーソングライター・アプローチにより『carapace』を編んだのか?”を主題として行なったものだ。『Works for Everything』の頃のインタビューと比べると、彼女の解答が遥かにスムーズかつ明快だったのが印象的だったりと、音楽家・石橋英子の進化をあらゆる面で鮮烈に感じたインタビューである。『carapace』をお聴きいただきつつお楽しみいただければ幸いだ。
『carapace』は 一音一音に責任を持ちたかった──『carapace』はシンガーソングライターとしての英子さんの資質が反映されていると思うんですが、そもそも英子さんはいつ頃シンガーソングライター的なスタイルを自覚しだしたんですか?
「勿論曲を作って歌うというスタイルはシンガーソングライターだと思うし、前作で“シンガーソングライターとしての石橋英子さん”みたいなことをいろんな方から言われるようになって、シンガーソングライターって言葉自体を意識するようになったんですよ。ただいわゆる弾き語りをされている方と自分とは違うという意識もあるんですよね。」
──僕は「夜鷹の星」を聴いたときに“もしかしたら物凄いポップな音楽も作れる人なのでは!?”と悟った1人なんですが、『carapace』はまさにその発展形とも言えるというか、ストイックなまでにシンガーソングライターとしての側面が出たと思うんです。でもその作業はおそらく英子さんにとっては苦しい作業だったんじゃないかなと(笑)。
「そうなんですよ。そこで苦しいと思ったことが、自分が生粋のシンガーソングライターではないと思う部分なんですけど(笑)。でもあえて自分のチャレンジとしてそういうスタイルをとったことで『carapace』はシンガーソングライターらしい作品になったと思います。ただ自分の活動を省みたときには、シンガーソングライターという言葉だけでは足りないという気もしますね。」
──例えば「光る窓に」は“なんか曲にならないかな”と、ひたすらフロアタムを叩き続けて作ったというエピソードがあるし(笑)、正直ここまでシンガーソングライター・アプローチでやってくれるとは予想外だったんです。スタイル的にはピアノの右手と歌メロがユニゾンする作風を徹底していますよね。あえて作り方を狭めているというか…。
「それをやりたかったんですよね。狭めることによって曲に奥行きを持たせたかったというのはあります。例えば『drifting
devil』ではまずドラムを叩いて、どんな曲になるのかわからないまま即興演奏を重ねていったんですけど、できあがるまでにイメージするものは自分にとっていろんな音が明白だったんですね。それが良さでもあったんですけど、逆に自分がやることを限られたものにしたときは、出てくるものが明白だと気持ち悪いんです。例えばピアノの音を出してそれが単に何かを説明するものだったら、ピアノから「それは違うよ」って返ってくるような気がするんですよ(笑)。」
──ただそのアプローチって本来英子さんにとって強みとなる部分が、抑えられてしまうというデメリットがあるかもしれない作り方ですよね?
「それをデメリットだという風にしたくなかったんです。勿論苦しい作業だったんですけど、自分が良いと思うかというよりも音楽に自分を捧げる感じというか、嘘じゃないものを作りたかったというか…言葉にするのは難しいですね。一音一音、一言一言が出てくるたびに独りでやっていると嫌気がさすときがあって。けれどそれでも続けていくことによって自分の奥深くに入っていくことができるというか、その作業を繰り返していくうちに本当に出したい音なり言葉が見えてくる。今回はそういう作業がしたかったんです。」
──今回いろんなインタビューで“嘘じゃない音”“偽りじゃない音”ってことを多々おっしゃっていて。でも別に『Works for Everything』『drifting devil』が偽りの音だったわけじゃないと思うですが(笑)。
「勿論そういうわけじゃないんですけど、ただもっと厳しくなったと思う。以前の作品に嘘はなかったとしてもあまり自覚的ではなかったんですよね。いっぱいドラムの音が鳴っていてそれでできちゃった、っていうようなところが大きかったと思うんです。“こういう音が鳴っちゃったけど、私弾いたっけな?”とか(笑)。でも今回はそういう風にしたくなかった。一音一音に責任を持ちたかったんです。」
──AOI(Gianni Gebbia,Daniele Camarda,石橋英子)のセッションでも一部に歌が入っていたわけですが、『carapace』とはアプローチが両極端ですよね。ああいうアルバムだったら英子さんはいくらでも作れるんでしょうし…。
「そうですね。たしかに他人とセッションしたりとか、インプロで作っていくほうが楽しいわけですよ(笑)。」
──『carapace』の制作はいつから始まったんですか?「一去年の暮れくらいかな?
ジムさんとは以前から一緒に演奏する機会があったんです。ジムさんに録音をお願いしようと思ったのは去年の6月くらい…でもそのときは本当に録音だけをお願いするつもりで。」
──一昨年、7th Floorで新曲披露のライブもありましたよね。「rythm」「emptyshout」辺りはそのとき披露されていたんですけれど。
「あのときは自分の中で曲が固まっているとは言えない状態だったんですけど、私の中では固まっていない状態で人前で演奏することに意味があると思っていたので。事実、それで見えてきた部分もあったし。」
──その後にジムさんが携わるというサプライズが待ち受けていたという。
「それは私もびっくりしたことで。ジムさんのアルバムの音は大好きだったし、ミックスとかプロデュースをお願いできたら勉強できるなとも思っていたものの、ジムさん御自身の作品作りに集中したいということも知っていたので、私から何か御願いするというのはすべきじゃないと思っていたんです。録る直前までは“時間がかかってもミックスまで自分で勉強してやるしかないな”と思ったりしていたので。でも録音の相談をしようと思ってデモを聴いていただいたらたくさん感想をくださって(笑)。1曲ずつ紙にバーッとアイディアが書いてあったんです。しかもそれは録音というよりは、その曲をどのように膨らませていくかということが多かったので、『もしかしてジムさん、これはプロデュースですよね?』と(笑)。『はい。ミックスもやります』っておっしゃってくれて。」
──ジムさんに火をつけてしまったんですね(笑)。
「どうなんでしょうね(笑)。私が可哀想と思ってくれたのかもしれないし(笑)」
──当初はミックスまでやろうと思っていたというのもいろんな場所でおっしゃっていますが、英子さんの人間関係には有能なエンジニアさんもいらっしゃいますし、そんな極端なところまで自分を追い込む必要はあったんですか?
「独りでこもっていた時期もあったし、なんかそういう気持ちになっていたんですね。今回の楽曲もいっそボツにしようかと思ったときもあったけれど、レコーディングの期日は決まっていたし“これは進めなくちゃいけないことだ”と。ただ前々から“できるところまで自分でやらなければ”という気持ちはあったんです。」
──なるほど。ただ7th Floorの演奏の際、山本達久さん(ds)、勝井祐二さん(vl)、中原昌也さん(effects)と新曲を演奏されていて、あのときの音でも僕は充分に手応えを感じていたんですよ。ただあそこからさらにマッシュアップしたというのは?
「やっぱりあの時点ではバリエーションのひとつというか、あのライブではリズム隊があったほうが良いと思ったし、ライブで演奏するのとアルバムにするのとでは違うんですよね。」
──それから今回のレコーディングメンバーでリリース前に渋谷WWWでプレイされましたよね? あのときの演奏もアルバムとは違うアプローチだったんですよ。
「うんうん、違うんです。次回はもっと変わるかもしれない(笑)。ライブでの表現の仕方はまだみんな探っている最中ですからね。」
──となると、英子さんの中でのレコーディング作品としての完成形と、人前で演奏して提示するものとしては別なのですか?
「はい、そこは別に考えています。生でドラムの音が聴こえてきたら歌い方も変わってきますし、ピアノの弾き方も変わってきますから。まったく別のものにはなってしまいます。『carapace』を作り終わってから少しは再現してみたいって気持ちもありますけど、ただ別のものとして扱ったほうが良いと思いますね。まったく同じには演奏できませんから。」
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石橋英子 / carapace2011.01.06 on sale
felicity cap-117
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